認知症について

AC_24PHAI28最近、認知症に関するコメンテータとしてマスコミにたびたび登場する朝田教授のまとめたデータによると、日本全国に“認知症”の人は400万人になり、認知症の前段階である“軽度認知機能障害(MCI)”を含めると800万人にのぼるとのショッキングなデータが厚生労働省より発表されました。

 

 

■認知症と記憶力低下の違いについて

「認知症」とはどのような病気なのでしょうか?

よく「認知症」というと「記憶力の低下」が言われます。では、そもそも「記憶」とは何なのでしょうか?

少し考えてみたいと思います。記憶は次の3つのステップからなります。すなわち

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の3つです。

忘れ物よくテレビを見ていて、歌が聞こえてくると「あれ、この曲知っているけど、この歌手誰だっけ?」などという経験はないでしょうか?このような経験が積み重なってくると「ひょっとすると自分は認知症では?」などと不安になりませんか?

 

 

ご心配なく!

それだけで「認知症」とはいいません。

そもそも、年齢を重ねてくると、記憶の箱にしまわれる知識量は増えていきます。当然その中から、必要な情報を引っ張り出すのには、時間がかかり、大変な作業になります。よくパソコンが情報量が増えると“重くなる”現象と同じです。

一方で年を取ると視力も衰え、耳も遠くなります。人間が何かを記憶の箱にしまう時には、大半を目と耳に頼っているわけですから、当然記憶の箱にしまい込むにはミスも起こりやすくなるわけです。

つまり先程あげた登録と再生の段階でつまづくことが多くなる、これがいわゆる“老化に伴う生理的物忘れ”です。しかし今まで貯えた「記憶量」は健全ですから、生活には何も支障がないことになります。

もう、お解りですよね。「認知症」の人の記憶障害、特に高齢者の場合は先程言った「登録」「再生」つまづきに加えて「維持」することができなくなるばかりでなく、今まで貯えてきた「記憶の情報」までなくなってしまうわけです。

結果、今まで上手に出来ていた家事や運転が出来なくなったり、お金や薬の管理が出来なくなったり、通い慣れた道で迷ったりするようになるわけです。すなわち・・・

生活に障害が出ます。

 

■認知症の定義について

以下の障害が出ると認知症であると認められます。

(1)記憶の障害

(2)言葉の不自由さ

(3)視空間機能の低下

(4)いろんな働きを統合する能力の低下

(5)いろんなことを同時にこなす能力の低下

現在、米国で開発された「認知症」の定義(DSM-Ⅴ)はこの「生活の障害があること」が最も重視されています。従ってそれは、記憶の問題だけでなく「言葉の不自由さ」や「視空間機能の低下」「いろんな働きを統合する能力の低下」など、生活の障害に直結する脳のダメージがみられれば「認知症」とされているわけです。

従って「認知症」とは生活障害、つまり生活のつまづきが気づかれて初めて疑われることになります。しかもそれは、それぞれ個人個人によって全然違います。例えば、戦争の混乱の中で初等教育しか受けられなかった人が連立方程式を解くことが出来なくてもおかしいとは思いませんが、中学校の数学の先生が解けなくなれば「おかしい!?」と気づかれるわけです。

つまり、その人が今まで造り上げてこられた生活のレベルに照らし合わせて、そして、それをよく知っている人(多くは家族、友人など)が「おかしいなぁ」と感じたとき、「認知症」が疑われるわけです。そんな時には是非当院の様な認知症の専門医にご相談下さい。

■認知症になってしまったら?

それでは、不幸にて「認知症」になってしまったらどうすればよいのでしょうか。

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現在、認知症の進行を遅らせる薬が開発されています。ドネペジル(アリセプト)、ガランタミン(レミニール)、リバスチグミン(リバスタッチ、イクセロンパッチ)、メマンチン(メマリー)などです。

しかしながら、これらの薬だけでは不充分です。つまり、認知症の人に適した「介護」を提供することが重要になってきます。この時、是非知ってもらいたいことは、認知症は一気に進行してしまうものではないということです。一般的に、軽度7年、中程度2~3年、高度5~7年と全経過15年くらいかけて徐々に悪化していくことが多いと言われています。従ってそれぞれの時期において介護対応を工夫していくことが重要になってきます。具体的に考えてみましょう。

(1)軽度の時期の対応

まず「軽度」の時期では、エピソード記憶障害(日々更新される個人的な出来事に対する記憶)、注意分割機能障害(一度に複数のことをこなすこと)、遂行実行機能障害(物事の計画を立ててこなしていくこと)などが見られるようになります。

具体的には、女性では家事が充分にできなくなり、料理の味付けがおかしくなったり、鍋を焦がしたりといったことがみられるようになってきます。

AC_13ILAD25男性ではやはり車の運転が危なっかしくなってくることが多いようです。最近では、高齢者ドライバーに対する規制が厳しくなりましたが、これには多分、認知症患者の増加が大きな影響を及ぼしていると言えます。

薬やお金の管理ができなくなることも問題となります。

また、患者本人に病識があまりなく、自覚がないことも問題となります。従って本人の気持ちを逆立てすることなく、家事に関してはヘルパーさんと一緒にやってもらったり、薬に関してはお薬カレンダーを使ったり、お金は大金はもたせないといった対応が必要になってきます。

運転を止めてもらうことは一般に大変なことが多い様です。そんな時は、免許センターで行われている適正検査を受けてもらい、警察(お上!?)に停止の命令を出してもらうという“荒療治!?”も必要となります。

(2)中程度の時期

次に「中程度」の時期ですが、ある意味この時期が介護負担が多くなります。

身体的・精神的症状(以下BPSD)が頻回にみとめられ、介助者も疲弊することが多い様です。暴言、暴力、落ち着きのなさが目立ったり、全く何もやらなくなる無気力、無関心、またはやる気がなくなるうつ状態がみられるようになります。

この様な時は、やはり専門職のヘルプが必要です。医療面ではBPSDをコントロールする服薬調整が必要ですし、介護面でもその患者様に合った対応が必要となってきます。「認知症の専門医」や、介護では「認知症ケア専門士」といった専門職に相談されるとよいでしょう。

徘徊また、徘徊が問題になるのもこの時期です。結果、何年も行方不明になったり、時には命を落としたりすることもあります。この様な時は、キャラバンメイト(オレンジリング)(※1)の人達にヘルプを乞うのも有効かもしれません。辛い事かもしれませんが、友人、知人、可能ならご近所の方にも、病状を理解してもらい、地域で見守っていくことが大切なこととなります。しかし、幸いなことにこの時期はそんなに長く続きません。長くても2~3年というとこでしょうか。

 

※1:キャラバンメイト(オレンジリング):認知症の人と家族への応援者である認知症サポーターを全国で養成し、認知症になっても安心して暮らせるまちを目指す団体。
→詳しくはこちら

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(3)高度の時期

「高度」の時期になると身の回りのこと、特に入浴しなくなったり、着物を上手く着れずパジャマのままで1日過ごしたり、さらに進行すると失禁が増えたりということがみられるようになってきます。

人としての尊厳が一面失われていくことが多く、介護者はとても辛い時期です。特に在宅介護が限界になり、グループホームなどへの入所も検討しなくてはならないこともあります。しかし、身の回りのことができなくなっても豊かな感情は残っています。この時期になっても繰り返し人としての尊厳を大事にすることの大切さを介護者(家族)にご説明させて頂くことに努めています。

 

■認知症予防について

予防については、高齢者のページでも1部述べさせていただいています。

(1)食事と栄養

まずは、食事と栄養。蛋白質中心にあらゆる栄養をまんべんなく摂ることは勿論、一方EPA、DHA、クルクミン、イチョウ葉エキス、ポリフェノールなどで様々な栄養が良いと言われていますが、確固としたエビデンス(証拠)があるものはない様です。

俗に地中海料理が良いとも言われています。

(2)運動

楽しそうに食事次に運動。これは先に述べたように習慣として行うことが大事です。

長寿医療センターの開発した「コグニサイズ」は予防にとても効果が大きいと言われています。当院にはコグニサイズのインストラクターもおり、ご興味のある方は是非連絡下さい。また生活習慣病の管理、特に糖尿病の管理は重要であり、持病をお持ちの方は、かかりつけ医とよく相談されるといいでしょう。

最後に認知症の中には治る見込みのあるものもあります。ビタミン不足や甲状腺機能の異常、正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫など、一度は認知症専門医にご相談されることをお勧めします。

本年度より、私は認知症サポート医になりました。「認知症になったらもう終わり、廃人だ」というような烙印(スライグマ)、誤解を解く活動をしていきたいと思っています。

 

認知症の科学的根拠に基づく正しい知識を普及させると伴に“人としての尊厳”を最後の瞬間まで持ち続けていただきながら、大切な人がいる“住み慣れた地域で住み続けられる(地域包括ケアー)”を具体化すべく努力していきたいと考えています。

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2015年10月4日読売新聞「病院の実力」静岡編に認知症の事で、当院院長の岡の考え、取組が取り上げられました。(クリックで拡大表示)

院長

医療法人社団 オカニューロケアクリニック 理事長
みしま岡クリニック 院長
岡 考(おか こう)